AIのおかげで数学を再開しました

2026年10月22日 第3回 AI for Math 招待講演

注意事項

  • 私はAI推進過激派で、今は数学のアカデミア外のAI企業の人間です
  • そういう人間の1人の意見としてお聞きください
  • 途中シリアスっぽい話もありますが、そんな人もいるんだなと笑って聞き流してください

Introduction

背景
最近次のようなことがよく言われる:
  • 「AIのせいで数学が楽しくなくなった」「AIのせいで数学をやめることにした」
  • 「AIが私から数学の楽しみを奪った」
主定理 [E]
次の条件を満たす人間が少なくとも 1 人以上存在する:
  1. AI以前は数学なんて辛く嫌いで、数学を楽しめなくなり、アカデミアを離れて数学をやめた
  2. AIのおかげで、数学を再開し、数学を楽しめるようになった
  3. AIが切り開く新しい数学と発見に純粋にワクワクしている

Outline

本日の内容
  1. 自己紹介
  2. 主定理の証明
  3. AIとどう数学をやっているか
  4. 私の立場から見る「AIと数学」

自己紹介

自己紹介

自己紹介

時期略称内容・リンク
2026.08Equidistribution部分圏の個数の等分布予想とCoxeter群 (arXiv:2608.18024)
2026.08Cartan determinant有限表現型多元環のCartan行列式予想の証明 (arXiv:2608.23132)
2026.09Periodicity多元環の周期性予想の反例 (arXiv:2609.09732)
2026.09Brick chain加群のbrick filtrationの有限性と増大度 (arXiv:2609.10217)
2026.09Homological conjectures古典的なホモロジカル予想群の同値性 (arXiv:2609.19172)
2026.10Magnitude加群圏のmagnitude予想の解決 (arXiv:2610.00413)
2026.10Reflexive equivalence多元環の反射的同値の理論 (Hexagon:2610.00024)
2026.103rd Brauer–Thrall第3 Brauer–Thrall予想の解決 (Hexagon:2610.00179)
  • さらに進行中の研究・執筆中の論文も多数
Question: 一体何が起こったのか?

自分語り1:数学が好きだった頃 $\leadsto$ 心を病むまで

中高〜大学時代:数学が好きだった
  • 中高の頃から、友達がいない代わりに数学の本を読んだり考えたりしていた
  • 大学で「数学を通じて人と関わる楽しさ」を知り、数学者を当たり前に目指し、修士 $\to$ 博士 $\to$ ポスドクへ進んだ
大学院以降、内面では数学が嫌いに
  • 常につきまとう劣等感:「人より自分は数学が劣っている」「なぜ人はあんなに楽しそうに数学をできるのだろう」「なぜ自分は数学をやっているのか」
  • 「数学 = 自分」の共依存状態
  • M2の学振申請での燃え尽きを機にうつ病
  • $\leadsto$ 数学に心を傷つけられて病み、数学が嫌になった

自分語り2:数学をやめた &「その場の興味」への熱中

  • 「数学 = 自分」ではないと捉え直し、民間企業への就職を選択
  • 数学ではない自分を大切にしようと思い、その時に熱中できるものを大事に:
  1. 2018年頃のVR黎明期にVRに熱中し、数学系VTuber(バーチャル数学科大学院生いたりんっ)として活動
  2. 数学の計算機的側面に熱中し、計算Webアプリの開発、Leanにハマり2023年に数学者向けのLean勉強会の主催
  3. 2023年頃のAIの進化で画像生成AI・音声AI に熱中しいろいろ活動($\leadsto$ 現職へ繋がる)
  • こうして数学から距離を取り、数学から離れた平和な生活を手に入れた(終)

自分語り3: 『MUSICUS!』はいいぞ

社会人生活
  • 平日は仕事、土日は休むだけで終了 $\leadsto$ 数学なんてやってる暇はない
  • 「機械学習やAIを専門に学んだ人の方が向いているのでは」「交換可能な社会の歯車だ」「自分である理由がない」という気持ち
転機:美少女ゲーム(ビジュアルノベル) 『MUSICUS!』 を今年1月にプレイ
  • 医者の道を歩むはずだった高校生が、ロックバンドというものに出会い、高校をやめてロックの世界で生きるお話(超おすすめだよ!)
  • プレイ後、毎日突きつけられた問い:
    「このまま漫然と社会人で生きていていいのか? あの辛く苦しい数学で論文を書いていた日々こそ、自己表現ができていたのではないか?」
  • $\leadsto$ 数学について考えざるを得なくなった

自分語り4: なぜAIのおかげで数学を再開できたか

  • とはいっても忙しい社会人にとって数学の研究は限界があり、特に何もできず……
  • $\leadsto$ 今年7月頃に数学に強いAIが登場してから一気に数学への熱が盛り上がり研究が加速
  • AIとの共同研究の成果を3年ぶりの数学論文としてまとめた(詳しい経緯)
  • そこからずっとAIとの数学が楽しすぎて、毎日熱中して仕事に支障をきたしている
Q: なぜ数学と向き合えるようになったか? A: AIのおかげ
  1. 時間がない社会人でも数学ができる!
    方向性を与えると、非自明な証明や例の構成を超人的なスピードで代わりにやってくれる!
  2. 「数学の辛いところをAIに任せて、楽しいところだけを摂取している」感覚
    • 辛いところ(AI):研究の方向性に行き詰まり、論文のネタもなく、面白い現象も見当たらず、証明もできず、例も見つからず、何をしていいか分からない
    • 楽しいところ(私):気になったことを自由にAIに投げて議論し妄想し、AIガチャ結果に驚き興奮する

主定理再掲

主定理[E]
次の条件を満たす人間が少なくとも 1 人以上存在する:
  1. AI以前は数学なんて辛く嫌いで、数学を楽しめなくなり、アカデミアを離れて数学をやめた
  2. AIのおかげで、数学を再開し、数学を楽しめるようになった
  3. AIが切り開く新しい数学と発見に純粋にワクワクしている
(証明) これまでの議論によりその人間の構成や条件の成立が示された。

AIとどう数学をやっているか1:平日夜・週末の過ごし方

  • 平日夜・週末:AIを3人くらい並列で数学をさせ、さらに3人くらいで並列でtexを書かせる
  • 自作の研究ハーネス・論文化スキルをGitHubで公開
① 基本設定・私の指示 好みの分野・ルール設定 研究スタイル・証明基準 私(自然言語で指示) ・「この方向で調べて」 ・「予想群をアタック」 ・「もっと概念的な証明に」 ・「論文にまとめて」 ② 研究ハーネス (math-research-harness) 研究状況メモ 現在の研究地図 解決/未解決境界 次の方針 結果カタログ 判明した命題一覧 証明済 / 計算検証済 未解決 / 反例発見 研究ノート 証明・反例の記録 実験スクリプト 試行錯誤のログ ③ 計算・文献・形式化ツール連携 qpa-rust 計算基盤 Rust製・高速探索 arXiv論文DB 予想抽出・先行研究 Lean 4 形式化 複雑な証明の保証 ④ 論文化パイプライン math-paper-skills 複数モデルの分業執筆 スタイル・引用チェック 過去論文のスタイルに統一 公開済8本+進行中多数 arXiv / Hexagon 公開

AIとどう数学をやっているか2:AIとの研究のマップ

▲ 理論構築・現象発見・概念的証明 ▼ 個別の予想・問題の解決 ◀ AI自律 私が主導 ▶ 実線枠=公開済(8本) / 破線枠=進行中 ★ 80年代の大定理の再証明 忘れられた複雑証明を概念化+Lean Reflexive equivalence 対話のキャッチボールで新理論構築 ★ 大域Jordan–Hölder性・拡大閉部分圏 私の指示・興味から一般理論を構築 Equidistribution Fableが現象発見 × 私が証明方針を指示 Magnitude 私が「被覆なし・概念的証明」を指示 ★ 後輩との共同研究(CE/KEとt-構造) 行き詰まっていた問題群を一気に突破 他:前ねじれ類・像閉部分圏 / 拡張加群圏のDGメッシュ / 高次二重Ext双対性 / 純入射分解と束の分配性 Magnitude 初期解決(被覆で証明) Homological conjectures 古典予想群の新しい同値性 他:OpenAI反例の構造・縮小 / 三角圏実現問題 / ZFC独立性 Brick chain 論文のQuestion群をAstraが解決 Periodicity 予想群アタックでAstraが反例構成 他:Keller予想 / 片側弱Gorenstein反例 / Brick予想群 / ARS問題群 3rd Brauer–Thrall Astraが解決 → 私が一般埋め込み定理へ再構成を指示 Cartan determinant 「有限型ならどうか」と私が指定 → 解決 ★ 個人的なQuestions集 昔から自問していた問題群を次々解決 他:凸g-fan分類 / 線形Nakayama数え上げ / Grothendieckモノイド など

AIとどう数学をやっているか3:代表的な研究パターン

1. AIが現象発見、人間が方針アドバイス(Equidistribution)
  • 3年ぶりの復帰作(謝辞に『MUSICUS!』)
  • AIが誰も気づいていなかった数値的一致を予想
  • 私が「あの圏論的手法で解けるのでは」と指示
    $\leadsto$ それを使ってAIが部分的に解決
  • AIに面白い論文を見つけてくれと頼み、そこで面白い論文を提案してくれた
  • その内容や、そこから私が気になった点をAIと議論
  • そうした私の疑問・リサーチクエスチョン $\leftrightarrow$ AIの回答の対話をひたすら繰り返して新理論を形作った
3. AIの初期解決 $\leadsto$ 人間が「概念化・一般化」を指示
  • Magnitude:最初はテクい証明、こちらが「概念的証明・分かりやすい証明」を何度も指示
  • 3rd Brauer–Thrall:AIの証明後に、もう少し一般的な定理からの帰結として示すよう指示
4. AIが問題群を自律的に解く
  • Periodicity / Brick chain:作業フォルダにためていた論文の予想・疑問群をAIが自律解決
  • Cartan determinant:私が「有限表現型の場合はどうか」と指定して、部分的な解決

私の立場から見る「AIと数学」1:アカデミア外の気楽さとジレンマ

  • AI使用で経歴に傷がつかない(どう思われても「趣味だから」で済む)、ジャーナルも出す予定はない
  • 論文のイントロは完全理解しているが、証明の細部は把握していないものが多い
    「自分が面白いと思った方向性で、AIが非自明な数学を見つけてきたなら、どんどん世に出すべきだ!」
どこまで人間が証明を理解すべきか?

私の立場から見る「AIと数学」2:AI研究者・エンジニアとの類似

AI分野の研究開発の現在地
  • 以前は人間が実験コードを書き、AIは相談相手程度だった
  • 現在:ほぼ誰も手でコードを書いていない
  • 人間の役割 =「AIの上司」
    • 「この論文で提案されたモデルを学習したいのでコード書いて」「実験をやって」「結果を可視化・分析して」「学習データを集めて・作って」
    • 「この結果どう思う?」「どういう実験をやると良いと思う?」「良いアーキテクチャやロスはある?」「その方向性は違うんじゃない?」
  • 「エンジニアやAI研究者が消える」と言われていたが、現状は消えていない
数学もこうなっていくのでは?
  • 人間が問題意識や方向性を出し、AIに数学をさせる
  • 計算機に数値計算を任せるように、証明の細部や例の構成はAIに任せる
  • 人間の役割 = 「優秀すぎる学生を指導する指導教員」
  • 私自身、普段のAI研究でのコーディングと同じノリでAIと数学をしている
  • ただ、それでよいのかは分かっていない

私の立場から見る「AIと数学」3:最近のAIの成果

超人的なAIへの感情
  • 自分の数学のモチベ = 「未知の現象が分かり、新たな景色が見えることへの知的好奇心」
  • 自分が昔考えて分からなかったけど問題が一瞬で解決される!自分好みの理論や方向性や個人的な問いも超人的に解決してくれる!すごい!分からないことが分かるようになって純粋に嬉しい!
  • (悔しさは皆無、もともと劣等感の塊なので)
Auslander–Reiten予想の否定的解決 (2026.09)
  • 1970年代以来の多元環の有名なAuslander–Reiten予想をOpenAIが否定的に解決
  • 直前の共著論文で同値性を示した2週間後くらいに、ホモロジカル予想のほとんどに反例があることが判明!これは夢か??
  • Astraでも衝撃的だったが、Astraを超えた「別次元のAI」の存在にワクワクしている

表現論の大御所 C. M. Ringel 先生の反応 (2026.10.09)

新しい時代が始まった! (2026.10.09)

AIが、古典的なホモロジカル予想がすべて誤りであることを示す例を構成したと言われている。これらの主張が正しいかどうかは(他のあらゆる数学者の主張と同様に)まだ検証されなければならない。しかし、少なくとも誰かが表現論を真剣にやり始めたのだ! Happel はいつも口癖のように言っていた:「我々は十分な具体例を知らない」と。

強調しておきたいのだが、数学には「反例」と呼べるようなものは存在しない。「反例」という概念は数学史に属するものであって、数学に属するものではない。それは単に、誰か(大抵は著名だとみなされている人物)が現実について誤った印象を抱いていた、ということを述べているに過ぎない。

これでようやく、次回の ICRA のワークショップが具体例の発表に充てられ、数学者たちが願望ではなく知識に基づいた表現論を発展させ始められると期待できるだろう。

まとめ

まとめ・メッセージ
  • 数学が辛くてやめた人間が、AIのおかげで毎晩・毎週末に数学を考えてワクワクしている
  • 同じような立場の社会人へ:AIと一緒なら楽しいところだけを摂取できるので、どんどん数学をやってほしい!これから自分のような立場の人からのこういう数学との関わり方が増えていくのではないか?
  • 数学を職業とする方へ:AIが切り開く新しい数学の地平と未来にワクワクして、AIを道具として研究にぜひ取り入れていってほしい!
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